「自己効力感」「早期療育」など・・・決まり文句の危うさ
ある出版社の通信に佐藤暁(さとうさとる、岡山大大学院教授、専門障がい児教育)の短文が出ていた。
よくある決まり文句(ストックフレーズ)を使っていればその分野ではとりあえずそれらしく受け入れられる。がその語彙がよく吟味されることなく、表面的な響きだけが流通してしまうことは危ういと指摘。
たとえば「自己肯定感」という言葉について
引用——————————
(心理臨床において)自分がだめな人間であると思い込み、投げやりになっている人、すなわち「自己否定」に陥った人に対して「あなたにもいいところがたくさんあるのだから、自分を否定せず前を向いて進みましょう」というメッセージが必要だった。そこで「自己肯定感」という造語が生まれた。
しかし、少し考えればわかることだが、実際、自分を肯定し続けながら生きていくのはとても大変である。まして、それが人のあるべき姿なのだ啓発されたりすると、できない人はますます追い詰められる。
だから、たいていの人は、否定も肯定もせず、むしろそんなことをあまり考えずに日々すごしているのだと思う。
—————————–引用終
また氏の専門分野の障がい児教育の分野でもよく使われる「早期療育」「ソーシャルスキルトレーニング」「就労支援」などの言葉について
引用(一部略)———————-
障がいのない子どもにさせないことを、障がいのあるという理由でさせるのは、よほど慎重でなくてはいけない。
「早期療育」の効果がどこまであるのか、それよりは、仲間とともに通う保育園で楽しく穏やかに過ごせる環境を整えてあげたほうがいい。ふつうだったら、まだやんちゃな時期から、社会的な振る舞いが求められるのはなぜなのだろう。
「就労支援」にしても、教科の勉強の時間をさいてまで、実習三昧の学校生活でいいのか。
親からすれば、「療育に通わせ、トレーニングを受けさせ、早くから就労に備えるのがいい」と聞かされれば気持ちは動く。だからいっそうストックフレーズは浸透しやすい。
もちろんそれらをすることじたい悪いことではないのだが、かたや見えない圧力に息苦しさを感じている親も少なくない。
——————————引用終
決まり文句は、間違いではなく意味はわからなくはないが、それにはどこかしっくりこない、しらじらさを感じる。これらを使うときは自覚的にならなくてはいけないと指摘。
この指摘はとてもしっくりくる言葉である。
氏は、それまでと違った言葉で子育てのことを語ってみるとのことで「わが子に障がいがあると告げられたとき」を今年出版している。