心の応急手当 2分間の集中

「心にも応急手当が必要な理由」TED(NHKスーパープレゼンテーション)
ガイ・ウィンチ(ニューヨーク大 臨床心理学博士)


「心にも応急手当が必要な理由」字幕動画

身体に傷を負ったとき応急手当をするように、失敗や孤独など心の傷にも応急手当が必要。
誰もが陥りやすい心のクセ、反芻(はんすう)を克服することの意味とその方法をわかりやすく解説している。

<以下「 」は動画からの引用>

「反すうとは 何度も噛み続けることです。
上司に怒鳴られた時 教授に授業で馬鹿にされた時 友達と大喧嘩をした時
その場面を何日も 頭の中で 繰り返さずにいられません。時には数週間です。 こういった腹の立つ出来事の反すうは 簡単にクセになり、 しかも その代償は とても大きいんです。
非常に多くの時間が 腹立たしくて、ネガティブな思考への集中に使われ、 自分を大きなリスクに さらすことになるからです。
うつ病やアルコール依存症 摂食障害 はては 心血管疾患まで。」

「問題なのは反すうの衝動が非常に強く、それを重要だと思い込んでしまうことです。 そのためこのクセをやめるのは 難しいのです。」

しかし
「研究によると たとえ2分間でも 気を紛らわすと良いんです。 するとその瞬間は 反すうの衝動から解放されます。
ですから不安や動揺 ネガティブな思考におそわれた時はいつも 僕は衝動が去るまで 他の事に集中するようにしていました。
1週間もしないうちに 物の見方が変わりました。もっとポジティブになり 希望をもてるようになりました。」

「孤独な時何か行動を 起こすことによって、
失敗に対する反応を変えることによって、
自尊心を保護することによって、
ネガティブな思考と対決することによって、
あなたは心の傷を 癒せるだけでなく 感情の抵抗力を身につけ 成長できるのです。」

「こんな世界を 想像できますか?
もしあらゆる人が 心理的にもっと健康になったら?
孤独や落ち込みを それほど感じないでいられたら?
失敗の克服法を 知ったら?
自分をもっと好きになり より自信を持つようになったら?
もっと幸せで 充実感を得られたら?
僕には想像できます それが僕の住みたい世界ですからね
皆さんが知識を得て 少しの簡単なクセを直すだけで 住みよい世界が 実現するでしょう 」

book 「ポリヴェーガル理論 」

「ポリヴェーガル理論入門  心身に変革をおこす「安全」と「絆」」
ステファン・ポージェス
春秋社 2018/11/6

副交感神経の2つの迷走神経と、トラウマ・PTSD・自閉症スペクトラムなどとの関連を解明。治療への神経系の重要な役割を示す先進的理論。初邦訳。

「マインドフル・ゲーム ―ゲームで 子どもと学ぶ マインドフルネス」

「マインドフル・ゲーム―60のゲームで 子どもと学ぶ マインドフルネス」
スーザン・カイザー グリーンランド
金剛出版 2018/7/13

ゲームの活用というこれまでのマインドフル実践と指導には見られなかった手段を紹介、判断をせず、ありのままを見つめ、自分にも他人にも思いやりをもって生きていくマインドフルネス入門書

book 「発達障害支援のコツ」

「発達障害支援のコツ」
広瀬 宏之 (著) 岩崎学術出版社 2018.6.14

発達障害の知識や支援の技法というよりも、発達支援にあたってのごく基本的な心構えや、支援に取り組む際のコツが中心。
発達障害の支援の原則は対人支援の原則と重なる。20年に渉る現場での体験もふまえ支援にかかわる人に語りかける

book 「高機能アルコール依存症を理解する ーお酒で人生を棒に振る有能な人たち 」

「高機能アルコール依存症を理解する 」
セイラ・アレン・ベントン 星和書店 2018.1.25

「お酒で人生を棒に振る有能な人たち」というサブタイトル、有能な仕事ぶりによって自分も周囲も依存症と気づかないとても多くのひとたち、その実態と回復への道。

book 「誰もが知りたいADHDの疑問に答える本」

「誰もが知りたいADHDの疑問に答える本」
ステファン・P・ヒンショー (著), キャサリン・エリソン (著), 星和書店 2018.3.10

特定の学説や治療法に偏らず公平に紹介、科学的基礎理論や医療情報を解説。過剰診断や治療薬の不適切投与などにつての情報もある。

book 「小児期トラウマがもたらす病」

「小児期トラウマがもたらす病  ACEの実態と対策」ドナ・ジャクソン・ナカザワ  出版:パンローリング 2018.2.18

ACE(逆境的小児期体験)と成人後の身体・精神疾患発症の関連が、明らかになった大規模研究。
生化学レベルでの理解と疾患の実態、事例とその対策。

book 「想像ラジオ」

「想像ラジオ」いとうせいこう 河出書房2013

今は、3.11東日本大震災から7年目の3月。

杉の木の上で亡くなった主人公が、想像という電波を通じでDJとして
リスナー(行方不明者)からのメッセージを受け取っていく。
メッセージを送り出していく。
すべてが想像、しかしとてもリアルに迫ってくる。とても重い。

「生者と死者は持ちつ持たれつなんだよ。
決して一方的な関係じゃない。
どちらかだけがあるんじゃなくて、ふたつでひとつなんだ」

「亡くなった人はこの世にいない。
すぐに忘れて自分の人生を生きるべきだ。まったくその通りだ。
いつまでもとらわれていたら生き残った人の時間も奪われてしまう。
でも、本当にそれだけが正しい道だろうか。
亡くなった人の声に時間をかけて耳を傾けて悲しんで悼んで(いたんで)
同時に少しずつ前に歩くんじゃないのか。死者とともに」
「たとえその声が聴こえなくてもだ」

とても考えさせられるというより、感じさせられる一冊。
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DJ番組なので、毎回ミュージックが贈られる。
その最後の一曲を紹介。
ボブ・マリーのラストアルバム「リデンプション・ソング」(救いの歌)

ボブ マーリー/Redemption Song《和訳》解放と救いの詩

book「ギャンブル依存症からの生還―回復者12人の記録」

ギャンブル依存症からの生還―回復者12人の記録

ギャンブル依存症からの回復の記録
主に自助グループの重要性が再確認される。
ギャンブル依存症は、薬物依存などと同じで本人の意思の問題ではなく、治療、社会的支援が不可欠。

book「疑似カジノ化している日本:ギャンブル依存症はどういうかたちの社会問題か?」

「疑似カジノ化している日本:ギャンブル依存症はどういうかたちの社会問題か?」

ギャンブル依存症の社会的問題をわかりやすくまとめたレポート

日本のギャンブル依存症者は536万人、その有病率は男性9.06%、女性1.6%。
米欧の0.2~5.3%と比べ、突出して高い。
背景には日常に深く浸透しているパチンコの存在があり、人口の28人に一台、
世界のギャンブル機の6割が日本に設置されていると言われている。

book「マインドフルネス入門講義」

「マインドフルネス入門講義」
大谷彰 金剛出版2014

今や書店ではマインドフルネス本が多く並べられ、TVや巷の講座などでも取り上げられている。グーグルでは2009年から社内研修で、ストレス解消、集中力、創造力、リーダーシップ力を高めるマインドフルネスプログラムを実施、これをひとつのきっかけに世界的に広がってきている。

本書はタイトルは「入門講義」ではあるが、よくあるハウツーものではなく「包括的・本格的講義」書である。
そもそもの発祥である仏教瞑想の歴史的流れ、ニューロサイエンスによる科学的検証、精神疾患への臨床応用など本格的な教科書であり、参考文献も多数にのぼる。
マインドフルネス全体を把握するには最適。

心理臨床では「マインドフルネス認知行動療法」などすでに多く取り入れられている。
続編の「実践講義」では、マインドフルネス段階的トラウマセラピーの実践的アプローチが具体的にまとめられている。

book 「ジョコビッチの生まれ変わる食事」

「ジョコビッチの生まれ変わる食事」
三五館 2016年
「あなたの人生を激変させる14日間プログラム」

 
トップテニスプレイヤー、ノバク・ジョクビッチ、
テニスの人気のない国セルビアで練習をつづけ、コソボ戦争でNATOの
空爆を受けながら厳しい練習を続けトップクラスに。

しかし、優勝はするが、次の試合では突然倒れてしまったり棄権したりで
第二集団でもがくだけの存在になってしまう。
2010年全豪オープンで勝てるはずの相手に試合途中に次々と
身体の異変が起こり、数時間の激闘後に敗退。

その1年半後に体重5キロ減の強靭な体でなんと世界ランク1位を手にする。

この人生を一変させたものは、トレーニング法ではなく食事だった。
小麦(グルテン)を排除するだけで、減量、体の動きが速くなり、強くなり
集中力もアップ、活力がみなぎるようになってきた。

本書では、その内容が具体的に披露されている。
レシピやエクササイズもある。

これは、ダイエット本や健康商品推奨本ではない。
トップアスリートの食事をまねることではなく、それぞれが自分にとって
最適の食事をどう見つけ、どう変えるか、体内の声に耳を傾けて
その方法を学んでいく、そのきっかけにしたい。

book「身体はトラウマを記録する」脳・心・体のつながりと回復のための手法

「身体はトラウマを記録する」
脳・心・体のつながりと回復のための手法
ヴァン・デア・コーク  紀伊國屋書店2016

 

著者は、PTSD・トラウマの臨床、研究の世界的第一人者。
本書はその30年に渡る臨床と研究の集大成と言われる。

ベトナム帰還兵の治療、研究のなかから定まったPTSD概念、
その後の長大な研究成果、回復へのいくつかの最新アプローチ
が示され、私たちの視野を広げ臨床での判断力を支えてくれる。

ここでは、その中身ではなく著者の臨床、研究の姿勢を紹介する。

—-あとがきから

「今日の世の中では、安全で健康な人生を送れるかどうかは(中略)
住居地、収入、家族構成、雇用、教育の機会が大きく物を言う、
(中略)
貧困や失業、質の劣る学校、社会的孤立、銃器の手に入れやすさ、
標準以下の住居などがみなトラウマの温床となる。
トラウマはさらなるトラウマを生み、傷ついた人は他の人も傷つける」

「今やトラウマは私たちにとって最も緊急の公衆保健問題であり、
それに効果的に対応する必要な知識はすでに存在する。
自らが知っていることに基づいて行動をおこすかどうかは、私たち次第なのだ」

「私たちの社会は今、トラウマを強く意識する時代を迎えようとしている」

—-これは、トラウマは精神科医、心理士だけの課題でなく、
教育、福祉、介護、法曹、行政、政治の領域においても
社会の現実から目をそらさず、
トラウマの成り立ち、影響を強く意識しなくては、
何も進まない時代にいるということを訴えている。

book 「赤ずきんとオオカミのトラウマ・ケア」

赤ずきんとオオカミの 「トラウマ・ケア」
——- 自分を愛する力を取り戻す
白川美也子 アスクヒューマンケア 2016

トラウマ支援に関わる人、当事者や家族を対象にという本書。

トラウマ(心的外傷、心の傷)は、災害や事故、犯罪被害など
一度の打撃による傷もあれば、DVや虐待、いじめ、
育児放棄など繰り返される傷もある。
これは、心身の健康や対人行動などに影響を与え、
社会生活、人生を困難にする。

この本では、「赤ずきんとオオカミ」の物語を交えながら、
トラウマの成り立ちと影響、回復への道のり、
支援の方法、姿勢など専門的な内容が網羅され、
それが整理され、とてもわかりやすく語りかけられる。

オオカミに食べられそうになるという恐怖の体験がトラウマに
なった赤ずきんがどう生き延びて回復するのか、
そして襲ったオオカミも実は過去に大きな心の傷をおっていた
ことに気づき苦闘しながら違う生き方を目指すという物語だ。

トラウマの受傷は誰にでも起こりうること。
当事者にとっても、支援者にとっても、手放せない書になると思う。

 

 

book「思い通りの死に方」

「思い通りの死に方」
中村仁一 久坂部羊 幻冬舎新書 2012

人生の最終局面をどう生きれば満足できるか、
現役医師2人の対談。

中村氏は「大往生したけりゃ医療とかかわるな」「追いと死から逃げない生き方」
などの著書がある。
「医療は本来患者が利用するもの、主権在患者。
医療者の考える最善と、患者側の考える最善は違うはずです。
患者は一人ひとり、生き方や生活背景や年齢などがことなります。
それらを踏まえて最善を考えます。
ところが、これまでの医療は、これらの個別事情を考慮せずに
一方的に医療側の考える最善を押し付けてきました。」

在宅医療専門の久坂部氏は
「長生きに関する世間のイメージと現実とのギャップが大きい。
90歳を越えるお年寄りの手術が成功すれば称賛する。
しかしそんなお年寄りに手術で苦痛を与えることの是非はだれも言及しない。
1年でも長生きすることに価値があると思っているが、実際には
苦しみながら長生きしてる高齢者が大勢います。」
「植物状態ならまだ穏やかなほう、もっと悲惨な状態はいくらでもある。」
という。

ほんの一部の「スーパー老人」を目指したり、何歳だろうが1%でも
助かる可能性があるなら救命努力するのが正しいと思う、こんな風潮に
疑問を投げかける。

死にたくても死ねない「長寿地獄社会」、
医者の仕事は「病人づくり」、90歳への心肺蘇生は正しいのか
いい看取りかどうかは死んだ人間のみぞ知る、
自然死は怖くない、など
人間にとって本当の尊厳とはなにか、大往生とはなにか
を考えるきっかけになる。

 

book「やさしいみんなのアディクション」

「やさしいみんなのアディクション」 「臨床心理学」増刊 2016.8

 

若い臨床心理学徒向けという企画。
編集者は「近い将来、アディクションン領域は心理士の主戦場になる」という国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦氏。

薬物、アルコール、ギャンブル、買い物、インターネットなどへの依存症、摂食障害、DV、自傷などへのアプローチと幅広く扱われる。

医学的基礎知識、治療・援助の実際、家族支援、回復とその後などのテーマで各専門家が短くわかりやすく解説する。

すでに臨床にかかわっている人にもとても有用。

一部を紹介する。

「自己治療としてのアディクション」(松本俊彦)から
——————————————-
人はなぜ依存症になるのか。
断言できるのは、決して快楽を貪ったからではないということである。
むしろ、そもそも何らかの心理的苦痛が存在し、誰も信じられず、
頼ることもできない世界の中で、
「これさえあれば、何があっても自分は独力で対処できる」
という嘘の万能感で自分をだまし続けたこと、私にはそれが
依存症の根本的な原因であるように感じられる
——————————————
依存症患者が決まって口にする言葉
「人は必ず裏切るけれど、クスリは俺を裏切らない」
——————————————

松本氏との対談のなかでの
田代まさし氏(日本ダルクスタッフ、自ら回復途上という)の言葉から
——————————————–
世間の人はよく、強い意志で薬をやめてほしいという。
3回捕まった、3回とも本心からやめようと思っていたんです。
でも強い意志なんて何の役にも立たなかった。

薬物依存は病気だと認められているのに「治療」ではなく「更生」という言葉を
使われるのはすごくもどかしい。

最初は半信半疑だった日本ダルクの回復プログラム。
ミーティングのなかで体験や正直な気持ちを話せたこと、
受刑者に手紙を書くなどの人の手助け、役割をもてたと感じられることの大切さ。

環境も変えなければいけないけれど、肝心なのは価値観を変えること、
薬をやめたいという気持ちをあきらめないこと、あきらめなければなんとかなる。
——————————————–

 

book「気持ちの本」

気持ちの本  森田ゆり 童話館出版 2003年

こどもが自分の気持ちを書いた絵が全頁にあふれる。
うれしいとき、おこっているとき、こわいとき、うらやましいとき
心配なとき、死のかなしみ、そして言葉にできない気持ち。

どんな気持ちも大切なこと、気持ちを伝えることも大切なこと、
その気持ちを率直に表現する言い方、聴き方。

こんなことをこどもといっしょに読んで話しあうのもいい。
こどもがひとりで読んでみるのもいい。
おとなも自分の表現方法、こどもの気持ちの気づき方、
接し方を考えてみるのもいい。

 

book「日本で一番大切にしたい会社 5」

「日本で一番大切にしたい会社 5」 坂本光司

 

シリーズ5作目。

社員とその家族、取引先、株主を大切にし、世の中の役に立てる会社。
社員が生き生きと活躍できる会社。

過重労働や違法労働が一向に減らない社会で、
「きれいごと」を一途に追い求め、果敢な改革で経営の質を高めていく会社の
中でなにがおこっているのかがよくわかる。

今回の紹介の会社
1 苛酷な運命を背負った障がい者が設立した夢のようなクリーニング会社

2 高齢者、女性、障がい者を主役に据えた人間愛あふれる運動着メーカー

3 会社はみんなのもの」との信念で幸せを輪のように広げるリフォーム会社

4 女性が大活躍する鋼材商社は“お互いさま”の精神で社員と家族に支えられる

5 「社員と家族を幸せにする」‐創業者の意思を脈々と継ぐ環境緑化・保全会社

6 「世の中の役に立つ」ための会社だから不動のNO.1であり続ける明太子メーカー

 

book「耳の傾け方 こころの臨床家を目指す人たちへ」

「耳の傾け方」 こころの臨床家を目指す人たちへ
松木邦裕 岩崎学術出版社2015年

 

タイトルからすると、よくある「傾聴」「受容と共感」の入門書ともとれるが、
内容は全く異なり、とても奥が深い。

著者は、精神分析臨床家、精神科医、京大大学院教授、精神分析関連著書多数。

目的は「こころの臨床家の専門的な聴き方」を著すことであり、
前半は、専門的な深い支持的な聴き方、後半は新たな聴き方精神分析的リスニングで構成される。

基本的な聴き方から、精神分析的聴き方まで、7つのステップが示される。
その項目のみ以下に紹介する。

第一部 深い支持的な聴き方 (能動的な聴き方)
ステップ① 基本的な聴き方― 批判を入れず、ひたすら耳を傾ける
ステップ② 離れて聴くー 客観的な聴き方の併用
ステップ③ 私自身の思いと重ねて聞く
ステップ④ 同じ感覚にあるずれを細部に感じる
ここまでを十分に身につけたうえで次のステップにむかう。

第二部 精神分析的リスニング こころを感知する聴き方
ステップ⑤ 無注意の聴き方
①から④の聴き方を退け、受身的に聴く聴き方
ステップ⑥ 平等に漂う注意をもって聞く
「記憶なく、欲望なく、理解なく」聴く、流し聴く(聞き流すではなく)
聴き方の順序を放棄し、気持ちを宙に浮かし漂わせた聴き方
ステップ⑦ 聴くことから、五感で感知することへ
鍛えられた直観、 転移の中に生きてクライエント/患者を感知する

ステップ⑤では、ビオンの言葉「患者から馬鹿にされることを許せない分析家(臨床家)には大きな問題がある」
を引用し、「理解できないことに持ちこたえておくという“負の能力”が求められます」と述べているところもある。

特に後半では、臨床場面での臨床家の微細なこころの動きが、とても細やかに具体的にありありと著されており、内容の理解にとても役立つ。

聴き方は、限りない広がりと奥の深さがあることを思い知らされる本書である。

 

 

book「世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ」

世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ  くさばよしみ編 汐文社 2014年

「目の前にあるのは、地球環境の危機ではなく、わたしたちの生き方の危機です」

南米ウルグアイのムヒカ前大統領が、2012年悪化した地球環境の未来についての国際会議でおこなった演説。
小国の話に関心を示さなかった会場のひとたちは、スピーチが終わると大きな拍手を送りました。

以下、本文から一部を抜粋
―――――――――――――――――――――
「70億の全人類が、いままで贅沢の限りをつくしてきた西洋社会と同じように、ものを買ったりむだづかいしたりできると思いますか。そんな原料が、いまのこの世界にあるとおもいますか。」

「もしインドの人たちが、ドイツの家庭と同じ割合で車をもったらこの地球になにが起きるでしょう。私たちが息をするための空気がどれだけのこるでしょうか」

わたしたちは、ものをたくさん作って売ってお金をもうけ、もうけたお金でほしいものを買い、さらにもっとたくさんほしくなってもっとてに入れようとする、そんな社会を生み出しました。

古代エピクロスやセネカの言葉—-
「貧乏とは、少ししか持ってないことではなく、かぎりなく多くを必要とし、もっともっととほしがることである」
このことばは、人間にとって何が大切かを教えています。

「目の前にあるのは、地球環境の危機ではなく、わたしたちの生き方の危機です」

——————————————–

この本には忘れてはならないメッセージがつまっています。

book「腰痛・治療革命 –見えてきた痛みのメカニズム」

「腰痛・治療革命 –見えてきた痛みのメカニズム」
NHKスペシャル 2015.7

日本人の4人に1人が悩んでいるといわれる腰痛、なかでもその半数が3か月以上続く「慢性腰痛」

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最近の研究で、痛みの長期化(慢性化)に「脳」が大きく関わっていることがわかってきました。

脳にはもともと、痛みを抑える鎮痛の仕組みが備わっているのですが、
慢性腰痛の人ではその仕組みが衰えていることがわかってきたのです。

ではなぜ、脳の鎮痛の仕組みが衰えるのか?
その大きな原因と考えられているのが、「痛みへの恐怖」です。

腰痛に対する恐怖や不安の気持ちが強いと、それがストレスになり、 脳の痛みを抑える働きを持つ部位が衰え、 結果として痛みが長引いてしまいます。
(NHKサイトから)
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これを克服するステップが紹介されています。
正しい情報、簡単な筋肉運動、心理療法の3つです。

①痛みへの恐怖を克服する映像を繰り返し見る
これだけで約4割に改善効果

②1回3秒、背をそらす姿勢を繰り返す
①だけで効果のなかった人の約半数に改善効果

③専門家による心理療法「認知行動療法」を受ける
①②で効果のない場合に受ける
「認知行動療法」はうつ病や不安障害などの治療として使われてきています。
これは腰痛学会、整形外科学会の腰痛治療ガイドラインでも推奨されています。

腰痛治療は最後は手術しかないと思われていた常識から変わってきています。

book「オープンダイアローグとは何か」

「オープンダイアローグとは何か」斉藤環 医学書院2015

オープンダイアローグ(開かれた対話)は、フィンランドで開発、実践されている、今注目を集める統合失調症治療法。

昨年、オープンダイアローグのドキュメント映像がネットで公開され、より広く知られるようになってきた。

ドキュメント映像  日本語字幕付き本編(74分)  予告編(3分)

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本書は、著者の解説と、実践の中心セイックラ教授の論文3篇からなる。

解説では、オープンダイアローグの概略、理論、臨床が簡潔に整理されている。

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フィンランドの一地方の病院で1980年代から開発、実践されてきたこの治療の原則とアプローチは、

①向精神薬の使用を極力避ける。

②患者から連絡が入ると24時間以内に、病院スタッフ(医師、看護師、心理士、福祉士など)複数人のチームが患者宅に向かう

③患者宅で、このチームと患者、家族がミーティング(開かれた対話)をもつ。
これは、状態が落ち着くまで毎日続けられる。このチームが継続して関わる。

④このミーティングは、「全員が平等、秘密は持たない、全員の意見を尊重、特に患者の意見を重視、治療法は患者が決める」原則で、チームメンバーも患者、家族のなかで考えや気持ち、治療法などを話しながら進めていく。
患者の幻覚、幻聴などの話もしっかり表現できる場とする。

という、従来の精神医療では考えられないもの。

このサービスは、フィンランドの社会的医療の中で、無料で提供されている。

この中で

①入院治療期間が平均19日短縮
②再発率24%に低下(従来の通常治療では71%)
③統合失調症患者人数は90%減

などのエビデンスが示されている。

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オープンダイアローグは、技法や治療プログラムではなく、哲学や考え方であるという。

初期に毎日行われるミーティングは、患者や家族の安心感、保障感となり、不確実な状況を耐えていくための支えとなる。

「ポストモダン」「社会構成主義」「オートポイエーシス」などの理論やとらえ方を引用しながら、オープンダイアローグのなかでは、「治療」そのものがではなく「対話」をつないでいくことが目標であること、ミーティングのスタッフメンバーは「診断」したり「介入」ではなくダイアローグ(対話)を続ける環境をつくることが仕事であるという。

幻覚、妄想、言語を絶した恐怖体験に圧倒されている患者が、その病的体験を言語化することで、治療的変化につながることがある。

オープンダイアローグを経験した人の言葉 「以前の治療では、私はまるでその場にいないかのように扱われました。今はすべてが違います。私はここに確かにいるし、きちんと尊重されています」 が象徴的である。

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更に、ミーティングの実際や、北海道の精神障害者治療共同体「べテルの家」との類似性にもふれている。

そして、今後日本での実践導入の課題(臨床、理論、組織、精神医学会の抵抗、これからの治療文化)を上げている。

いろいろな課題を提供する魅惑的な内容である。

book「統合失調症  その新たなる事実」

「統合失調症」その新たなる事実   岡田尊司 PHP新書2010年

100人に1人がかかるといわれる統合失調症、しかしいまだにある根深い偏見。
精神科医である著者は、統合失調症を語る精神医学の用語が、「感情鈍麻」「平板化」「欠陥状態」などいかに古色蒼然とした非人間的なものかと指摘する。「欠陥状態」を示しているのは精神医学ではないかと。

統合失調症の治療は、良好な回復を示すケースが増えている一方、回復が頭打ちの状況もみられる。
本書は、症状、診断、神経メカニズム、治療と回復についての新たな情報(2010年時点)を伝えている。

薬物療法の重要性と画期的進歩とともに、環境(治療、生活、家族)や社会的心理的かかわりの重要性も指摘する。
更に、文明の歴史と同じ長さの統合失調症の歴史、社会から隔離、抹殺されてきた「闇に閉ざされた歴史」にもふれ、現代社会との関連も指摘する。

治療とかかわりの姿勢で決して忘れてはならないと感じたところを以下に紹介する。

薬物療法が功を奏して、誇大妄想が消える場合は、その人を支えていた希望やよりどころが失われた状態になり,突然自殺してしまうケースもあることを紹介し、以下を述べている。

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「妄想が、本人にとって最後の支えなのだということを理解すれば、それは現実ではないとむげに否定したり、
非難することは、あまり賢明な対応ではないことがわかる。実際否定すればするほど頑固にやぐらを組む。」

「それ(妄想を否定すること)はある意味、神を信じている人に、現実には神などいないと言っているようなものである。
本人からすると、自分のよりどころとしているものを否定されることで、余計に自分の価値が貶められたと感じ、それを代償するためにもっと妄想をエスカレートさせてしまう。」

「重要なのは、本人がどういう状況におかれ、どういう思いを味わっているだろうかと、背後にある気持ちを汲み取ろうとすることなのである。本人は、何を伝えようとしているのか、言葉の背後にあるメッセージを聞き取ることなのである。」

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book「生きたことば、動くこころ」河合隼雄語録

河合隼雄語録「生きたことば、動くこころ」 岩波書店 2010年

本書は、京大臨床心理学教室での事例検討会における、河合隼雄のコメントをまとめたもの。
当時の大学院生がテープ起こししたノートがもとになっています。
事例は掲載されずコメントだけなので、わかりにくい面もあるが、心理臨床専門家だけでなくとも人の心の動きの様々な示唆が得られます。
何回も読み込んでいくと河合隼雄の深さに触れることができるのではないでしょうか。

本書の構成は
Ⅰ 面接場面の具体的問題
Ⅱ クライエントの内的力動
Ⅲ クライエントーセラピスト関係
Ⅳ セラピストとしての問題
Ⅴ 治療観から人間観へ

今回は「セラピストとしての問題」から「共感の本質」の一部を紹介します。

—————————
セラピストがこの人の気持ちとか感情にペースを合わせて聴いていこうというのだったら、
この人のつらさというものをよっぽどわかってないといけない。(略)
「そりゃ大変ですね」って言っても、それは話にならないわけです。(略)

聴いていく、受け入れていくんだったら、この人の悲しみというものをものすごく分らないといけない。
そのためには、こういう人の書いた本いっぱいあるでしょ。小説もあるでしょうし、そういうの読んで自分で想像力をたくましくて、自分が女性で子ども抱えて一人でアパートに暮らしていたらどうなるのかということをもっと感じないといけない。

そこに波長を合わせていたら、一つひとつの話なんかは何も返事しなくていいというようになるんです。
全然返事がないんだけれども、クライエントはものすごく深いところで聴いてもらっているような気がするんです。

向こうは、何やら放っておかれているのか、わかってもらってのか、わからなくなってこざるをえないけど、考えざるをえない、ということになってくるわけですね。

・・・・・・・・・・・・・・
(障害児ももってないのに話を聴く)資格もないのにと、クライエントから短刀を突き付けられて、
なんでそこに座っているといわれているほどセラピストの胸にこたえてなかったら、それは共感にならないんです。

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共感というのは、単なる言葉のやりとりではなく、セラピストがどこまで深いところで感じるのかで、クライエントも深いところで受け止められてると感じること。こんな共感にすこしでも近づきたいものです。

book「恥と自己愛トラウマ–あいまいな加害者が生む病理」

恥と「自己愛トラウマ」–あいまいな加害者が生む病理

岡野憲一郎 岩崎学術出版社(2014年)
「恥と自己愛の問題はライフワーク」という著者、京都大教授、「恥と自己愛の精神分析」「新しい精神分析理論」「解離性障害」「脳科学と心の臨床」など多数。

著者は、「恥こそが最も人間にとって威力を持つ感情である」という。「恥を怖れ、恥をかきたくないという思いが人を強力に突き動かす。恥をかかされたという思いが相手への深い憎しみとなる。」

「近年、怒りをその背後にある恥や罪悪感との関連からとらえる・・・怒りを二次的感情として理解することが一般化しつつある」ことを紹介しつつ「怒りには、自己愛が傷つけられたことによる苦痛、すなわち恥が先立っている」「怒りは、実は恥や弱さに対する防衛という意味合いを持っていることになる」と述べている。
(これは臨床でも実感するところと重なる)

恥をかかされた体験を「自己愛トラウマ」と呼ぶ。
「自己愛とは、自分に満足し、満ち足りた状態をいう。自分は大丈夫だ、やれるんだという気持ち。自分は案外イケているじゃないか、という自信。それが自己愛だ。
恥はそれが侵害され、押し潰された時の感情として理解できる。それは深刻なトラウマ、すなわち自己愛トラウマ体験を引き起こすのである」

「自己愛トラウマを引き起こす加害者は誰なのか。多くの場合、加害者の存在はあいまいである。
その人は加害行為に気がついていなかったり、そのつもりがなかったり、逆に自分こそ被害者だと言い募るかもしれない。
しかし加害者がわかりにくく、あいまいであっても、あるいは不特定多数の人々であっても、自己愛トラウマを被った人の傷の大きさは変わらない。
そしてその自己愛トラウマがそこから新たな怒りや加害行為を生むこともある」

本書では、この「自己愛トラウマ」と「あいまいな加害者」という切り口で、いじめ、モンスター化現象、無差別殺傷事件、災害トラウマ、学校教育、さらに文化論にまで及んで語られる。
そこでは「恥の力」によって私たちにさまざまな度合いの自己愛トラウマを与える、それが個人の病理として現れたり、社会全体に見られる問題を形成したりもすることが指摘されている。

心理療法が語られているのではないが、様々な切り口がとても興味深く参考になる。

著者が本書について振り返った文章を紹介する。理解の参考として分かりやすい。
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発達障害に関連した事件、いじめ、モンスター化現象など、様々な社会的な問題にこの「自己愛トラウマ」が関連しているというのが本書の趣旨である。

しかし、改めて考え直すと「自己愛トラウマ」は、トラウマとは言っても、かなり身勝手なそれである場合が多い。
本人の自意識が強く、人からバカにされ、脱価値化されることへの恐れが大きいばかりに、普通の人だったら傷つかなくていいところで激しく傷ついてしまう。
問題はそれが本人にとってはトラウマとして体験されることであり、そのため爆発的な反動を生み、それは怒りとなって確実に「あいまいな加害者」たちに向かい、彼らはその濡れ衣を着せられてしまうことが多い。
実に複雑で厄介な問題を生むのである。

本書で十分にふれることができなかった問題のひとつは、
加害者の存在がしばしばあいまいなだけでなく、時には被害者にすらなる、ということである。

「浅草通り魔殺人事件」を考えてみよう。
「歩いていたら短大生に、後ろから声をかけたらビックリした顔をしたのでカットなって刺した」というのが犯人の言い分であった。
この場合、犯人は確かに私の言う意味での「自己愛トラウマ」を受けたのだろう。
そのトラウマを与えたのは短大生であり、犯人はその限りにおいては被害者ということになる。
しかしこの事件の最大の犠牲者、被害者はこの短大生であることは言うまでもない。
彼女を加害者と呼ぶことは決してできない話である。

それでは犯人の体験をトラウマと呼んではいけないのだろうか?
倫理的には「とんでもない、それは身勝手な話だ」ということになろう。

しかし心理学ではこれをトラウマと扱うことで見えてくることがある。
それは通常の、一般人が体験し、かつ理解可能な「自己愛トラウマ」と同じ種類の、しかし何倍も強烈なインパクトを犯人に与え、それが激しい攻撃性を相手に向けさせたという事実である。

この倫理的な理解とは切り離されたトラウマ理論は、一部の発達障害における心の動きや、場合によっては反社会的な人々の心の動きにも及ぶ可能性がある。
その意味ではこのテーマを扱うことは、何か危険領域に論を進めているような不安を感じさせる作業でもあった。
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book「こころを診る技術――精神科面接と初診時対応の基本」

「こころを診る技術――精神科面接と初診時対応の基本」宮岡等 医学書院 (2014年)

著者 北里大学精神科学主任教授 北里大学病院副院長

本書の内容は、「精神科医であれば実施すべき標準的な面接」「若い精神科医に伝えたいこと」と著者はいう。

そして、著者が今もっとも気にかけていることとして
「向精神薬の多剤大量処方と 薬を処方するしか脳のない精神科医」
(向精神薬なしに精神医療はできないし、適切に使いさえすれば極めて有効であるが)
「あまりにも面接時間が短いだけでなく、精神科医の言葉が患者さんを傷つけているのではないか」
「一方で、安易に精神分析療法や認知行動療法などの専門的精神療法が実施されて、かえって精神療法の副作用がでてるのではないかと疑いたくなることもある」
をあげている。

内容は、「精神科における面接の大切さとその基本、初診面接の具体的症例、面接時の具体的注意点、更に精神分析基礎知識、面接の副作用、診断基準(DSMなど)への考え方、薬物療法の大原則」と、面接スキルだけに終わらないものになっている。

なかでも初診時面接では、「患者と家族とどちらの話からきくか」「病歴や精神症状の尋ね方」「印象は慎重に伝える」「過度に医療化しない」「得意な治療だけを押しつけない」など心理療法家にとっても考えさせられるところが多い。

あとがきにも著者の伝えたいことが凝縮されている。

「患者が医師の指示通りに服薬しないという状況において、患者にどのような問題があるかではなくて、医師の説明にどのような問題があるか、と考えるべき場面は多いし、そう考えないと治療技術は進歩しない。」

「どのような患者感をもっているか、どのような医師―患者関係がよいと考えているのかに関するきちんとして考えがないところに面接法は生まれない。」

 

book「正しく知る 不安障害  –不安を理解し怖れを手放す–」      

「正しく知る 不安障害  –不安を理解し怖れを手放す–」
水島広子  技術評論社(2010年)

本書は、精神科医であり日本での「対人関係療法」の第一人者である著者が、一般向けに「不安障害」をわかりやすくまとめたものです。
パニック障害、社交不安障害、強迫性障害など個別の不安障害の解説が中心ではなく、そもそも不安とはどんなものか、不安とのつきあい方はどうすればよいかなどが示されています。

不安の症状で仕事や生活に支障が出ている場合、日常的に出てくる不安に悩んでいる場合、治療中の場合など、不安の受け止め方のヒントとしてとても参考になります。

以下、本書から一部(要約)を紹介します。
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<不安には、解決すべき不安と感じるしかない不安がある>

解決すべき不安は、相手に確認してみることや、調べてみること、相談することで解決できます。
感じるしかない不安は、当たり前の不安、誰が考えても調べても解決しないものです。 新しい土地に引っ越すときは不安ゼロにならない、不安になるのは当然です。
不安に駆られているとき「なんとかしなければ」と焦ってしまいます。無理をしない、自分に甘くする、不安を周りの人と共有することも必要です。

<不安障害の人に対応するには、不安の土俵にのらない>

パニック障害の人に 「パニック発作がまた起こったらどうしよう」と言われて、「もう起こらないから大丈夫」と言っても全く話になりません。「発作が起こっても死なないから大丈夫」と言っても、それで相手が安心することはありません。逆にますます不安をもって「どうしてそんなことが言えるの?」と繰り返し聞いてくるかもしれません。

これは、そもそもそんなに簡単な言葉で解決するなら病気とは言えないし、不安障害は解決不可能な次元に留まって不安が持続している病気なのです。

パニック発作が治るときは、「また発作が起こるだろうか」という次元への答えは保留のまま、どんなときに発作が起こるか、パニック発作はどういう性質のものか、自分のどういう変化を反映したものか、などの次元で答えを得ていくものです。「また起こるだろうか」には「さあ」という程度の答えしかできなくても病気は治っているものです。
不安障害の人の不安をそのままの次元で解決できることはまずないと思ってください。

<不安を単なる感情に戻して、不安への怖れを手放す>

不安は、安全が確保されていないということを知らせてくれる感情ですから、必要なときには出てきます。
この不安の感情は、出ないようにコントロールすることができません。
不安が怖いから、不安を感じるのは未熟だからと思っていると、なんとかコントロールしようとします。不安を過大視した怖れの姿勢です。
必要なときに出てくる単なる感情なので、不安が出てくることを含めて受け入れることができれば、コントロール感覚を持つことができますし、不安に対する怖れを手放すことができるでしょう。

book「Open Dialogue 開かれた対話 — 注目を集める統合失調症治療法」

Open Dialogue 開かれた対話
注目を集める統合失調症治療法–向精神薬を極力避ける
OpenDialogue 開かれた対話 ドキュメント映像

フィンランドの北極近くのラップランド地方の病院で1980年代から開発、実践が行われてきた主に初期統合失調症への治療法です。

この治療の原則とアプローチは

・向精神薬の使用を極力避ける。
・患者から連絡が入ると24時間以内に、病院スタッフ(医師、看護師、心理士、福祉士など)複数人のチームが患者宅に向かう
・患者宅で、このチームと患者、家族がミーティング(開かれた対話)をもつ。
これは、状態が落ち着くまで毎日続けられる。このチームが継続して関わる。
・このミーティングは、「全員が平等、秘密は持たない、全員の意見を尊重、特に患者の意見を重視、治療法は患者が決める」原則で、チームメンバーも患者、家族のなかで考えや気持ち、治療法などを話しながら進めていく。
患者の幻覚、幻聴などの話もしっかり表現できる場とする。

というものです。

従来の精神医療では考えられないものです。

そしてこのサービスは、フィンランドの社会的医療の中で、無料で提供されています。

この実践を通じて
・入院治療期間が平均19日短縮
・再発率24%に低下(従来の通常治療では71%)
・統合失調症患者人数は90%減
となっています。

チーム人員も多く費用がかかりそうですが、長期的に見ると軽減されます。

このモデルは,ロシア,ラトビア,リトアニア,エストニア,スウェーデン,ノルウェーなどに国際ネットワークがあります。

日本版オープンダイアログの実践を期待したいものです。

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斎藤 環氏(精神科医、筑波大学教授)の寄稿文から一部紹介
(週刊医学界新聞 第3082号 2014年6月30日)
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それではなぜ「開かれた対話」が治療的な意味を持ち得るのだろうか。

ODAP(注:オープンダイアログのこと)には,二つの理論的支柱がある。
G.ベイトソンの「ダブルバインド理論」と,M.バフチンの「詩学」である。
ことに重要なのは後者だ。そこでは「モノローグ(独り言)」の病理性に「ダイアローグ」の健康さが対比される。
統合失調症の患者は,しばしば病的なモノローグに自閉しようとするが,ODAPによる介入は,それをダイアローグに開くように

作用するのである。

発症当時は全てがあいまいである。ODAPでは,あえて診断や評価には踏み込まず,あいまいな状況をあいまいなまま対話に

よって支えていく。

その際,参加メンバーの役割や社会的階層は重視されない。
メンバー全員のあらゆる発言が許容され傾聴される。
この雰囲気そのものが安全感を保障する。どんな治療手段(入院,服薬など)が採用されるべきかについては,対話全体の流

れが自然な答えを導いてくれるまで先送りされる。

統合失調症の発症初期において,患者は自らの耐えがたい体験を語るための言葉を奪われている。
それゆえ,患者が幻覚や妄想について語り始めても,スタッフはそれを否定したり反論したりせずに傾聴する必要がある。
その上で「自分にはそうした経験がない」という感想を語り合ったり,その体験についてさらに詳しく患者に尋ねたりする。

ODAPでは,議論や説得はなされない。
この対話の目的は,合意に至ることではないからだ。
安全な雰囲気の中で,相互の異なった視点が接続されること。
ここから新たな言葉や表現を生み出し,象徴的コミュニケーションを確立することは,患者個人と社会とのつながりを回復し,新

たなアイデンティティと物語をもたらしてくれる。
これがODAPのもたらすポジティブな変化であり,臨床上は症状の改善として現れるのである。

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なお、「開かれた対話」のドキュメント映像がこちらから見ることができます。
日本語字幕付き本編(74分)  予告編(3分)
OpenDialogue 開かれた対話 ドキュメント映像

book「メンタルサポートが会社を変えた! —オリンパスソフトの奇跡」 

「メンタルサポートが会社を変えた! —オリンパスソフトの奇跡」
天野常彦 小杉佳代子  創元社 (2011年)

 

著者は、オリンパスソフトウェアテクノロジーの社長とメンタルケア相談室長。

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新任社長が着任したのは、約300名のオリンパスグループのソフトウェア開発子会社。
そこでは、残業は月100時間を超え、隣の人が急に会社に来なくなるなど離職率は高い。

(以下「  」は本書からの引用)

「信頼と安心を失った企業」
「無気力、無関心なさまは一言でいえば殺伐そのもの」

「会社のビジョンも方針もわからないが、とにかく長時間働く人が偉い、休まず出社する人がほめられた。
問題のある労働環境があったとしても受け入れるべき、という態度を美徳とする社風であった」

技術指導もなく精神論が支配する職場では、当然メンタル不調者は多く、業務自体も頓挫したり、疲弊しきった職場だったのです。

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これでは、社員だけでなく企業そのものの存続も危うい。
そうではなく、「一人ひとりの能力を最大にし、なおかつ安心して働け、しかも幸せになれる組織にするには・・・・社員のメンタルヘルスに注目する必要がある」

この立場から取り組んだ施策は3年半でなんと130件以上

まず1年目は、社長自らが全メンバーとの面談(少人数グループで1時間程度)、その後も年1回の全員面談を実施。
就業規則の約7割を見直し、その変更一つひとつを全メンバーに理解がえられるまで説明を継続。

本書では、20項目の具体例が盛り込まれています。
その施策の一部を紹介します。

①勤務時間選択制度
6時間、7時間、通常勤務の選択制度。理由の如何を問わず、期間は本人が決める制度。

②ドレスコード
スーツにネクタイからリラックスして仕事ができる服装に。
老若男女の社員からなるドレスコード委員会で決定。

③給与規定
給与水準は本社(親会社)並み、年齢給復活、定年退職金増額。
世間の趨勢に逆行するが、狙いはこの会社で長く働いてもらうこと。採用費用や優秀な社員が退職する損失を減少。

④人事評価は、売上評価から顧客評価へ

⑤マネジャーへの360度評価
メンバーからの推薦、評価を前提とする。

⑥オフィスの移転、開発環境の一新

⑦職種別のスキル目標と方向性の可視化、やり直し文化の醸成

⑧コミュニケーション促進制度、問題解決力アップ、英語力アップ

⑨新しい企業文化の創出
社内サイトでの社内情報のリアルタイム共有化、世代を超えた信頼関係
⑩メンタルケア相談室の設立

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そして驚く結果です。

①メンタル不調者53%減
②休職者ゼロの期間 4か月
③休職期間 70%減
④復職率 73%
⑤自己都合退職率 0% (結婚や病気治療除く)
⑥育児休暇取得率 93%
⑦出生率 51.5%
⑧開発生産性 32%アップ

最後に著者の言葉
「たんに利益を通級するために働いたり、名目だけの社会貢献活動を行う企業の時代は終わろうとしていると思います。
少なくともメンタルシックの問題を放っておく経営者は、経営マインドそのものを問われる、そういう世の中になるでしょう。」

「みんな何かができて、何かができない。そうであれば、できないことを補い合いながら生きていけばいい。生きる喜びを分かち合えばいい。
企業にできることは、そのための器を用意することにすぎないのではないかと思います。」

この言葉、信念があればこそ得られた結果に違いありません。

本書には、社員向けのガイドブックや、自己チェックシートも多数ありとても参考になります。

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一般に、職場のメンタルヘルス対策としては、
従業員や管理職へのメンタルヘルス研修、社内相談体制の整備、外部医療機関の紹介連携、外部専門会社に委託などが行われています。
しかし、多くのところでは、対策を始めても、その効果が実感されない、改善されない、継続が難しい、などの問題課題が出ています。

最初の一歩としてのこれらの「対策」の形は必要ですが、形が目的ではありません。
それに「魂」をいれること、いや「魂」を持って進めていくことが大切なことを、あらためて実感させられた記録でした。

book「もう独りにしないで: 解離を背景にもつ精神科医の摂食障害からの回復」

「もう独りにしないで: 解離を背景にもつ精神科医の摂食障害からの回復」  まさきまほこ 星和書店 (2013年) 

この本は、著者が研修医を始めるころ(今から10年ほど前)までの実体験を語ったものです。

誕生から26歳までのリアルな場面が綴られます。

◆幼少期から、両親、祖父からの日常的な虐待。
あまりにもすべてを否定され続けられる中で生き延びるには、自分を見守り助けてくれる「自分の中のもう一人の自分、別の人格」が必要だったこと。 (解離性障害)

◆虐待による慢性の心的障害の上に、さらに、震災での祖母の悲惨な死、学校時代に続いた親しい人の突然の死が、心的外傷を積み重ねていったこと。

◆これらから摂食障害を発症。拒食、過食嘔吐を繰り返し体重30キロ代になり、身体的に危険な状態であるにもかかわらず病院にいく選択肢がなかったこと。
(医師である父から、風邪をひくだけで怒鳴られ、病院に行くことは罪という家の法則に縛られていた)

◆肉体的にも精神的にも極限状態で医学部時代を過ごす。
複雑性PTSD、解離性障害、摂食障害そして、うつ、パニック、強迫症状などを抱えながら。
世界のすべての現象が自分のせい、活きてる価値はない、など幼少時に感じたのと同じ罪悪感をもちながら過ごす。
しかし、この極限状態にもかかわらず、病気だとか、被虐待者であるとかの実感はまったくなかったこと。

◆なんとか研修医としてのスタート台に立つが、この状態を続けられないと判断、いったん退職し休養を選択。症状をかかえながらも、少しずつ「今を受け入れ」、人生に対して気楽になり、生活リズムも取り戻せるようになる。まだ傷は癒えてはいないが、医学の道への再スタートを切ることになる。

実録のあとに、著者自身の解説、分析がまとめられている。

「解説」から、以下引用
—————————-

私は治る日など程遠いと思っていた。
もしかしたら一生、食物との格闘にまみれて過ごすのではないかと絶望的な日々を想像するだけで、希望も何もかも失われていった。

明日、目が覚めたら死んでますようにと何度となく祈った。

雑踏や閉所で起きるパニック発作が怖くて、自宅からは一歩も出ることがきなくなった。

屍のように眠り続けても、まったく疲れがとれないうつ状態で、這うように過ごすしかない日々が続いた。
その悲惨さは筆舌に尽くしがたい。

—————————

あの悲惨な日々の自分に「治るよ」と言っても私は信じなかっただろうし、健常人にとっての「・・信用できることが当たり前」というその健常な土壌こそ、障害ある者の身ではなんとも信じがたいことであり、かつ羨望するものでもあり、「隙間」から見える光でもあった。

でも発症した頃には手を伸ばしても全然届かなかった。しかし豊かに降り注ぐような余りある光に、手が届く力はいつも今ここでの日常生活にこそあると、今は思う。

—————————

著者もいうように、これらは極めて個人的体験ではあるが、幼少期の虐待からこのような精神的な疾患、障害を持つ人の心の内、世界の見え方のひとつの理解につながる著書であると思います。

 

 

book「銀河鉄道の夜」 藤城清治 

「銀河鉄道の夜」 藤城清治(講談社 1982年)

影絵作家、藤城清治が描いた銀河鉄道の夜、1982年の初版以来ロングセラー。

藤城清治の影絵絵本を手に取ると、宮沢賢治「銀河鉄道の夜」の幻想的な世界イメージをよりリアルに感じる。

それだけでなく、,影絵に引用されている宮沢賢治の原文、短く一部が引用された原文によって、
以前からなんとなく気になっていた2つの印象が、より鮮明にされたように思う。

その2つ印象とは

(1)言葉の一瞬の隙間での心の揺れが伝わってくる

主人公の少年ジョバンニが、病弱の母のための活版所で活字ひろいの仕事を終えて、友達がいる銀河のお祭りへ向かうところのシーン
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十字になった町のかどを曲がろうとしたとき、むこうのほうから、ききおぼえのある声が聞こえて、ジョバンニの同級のこどもたちがやってきました。

「カンパネルラ見なかった(?)」
そういおうと思ったとき、ザネリが投げつけるようにいいました。

「ジョバンニ、お父さんかららっこの毛皮がくるよ」
ジョバンニは、ばっと胸がつめたくなり、そこらじゅうがきいんと鳴るようにおもいました。
「らっこの毛皮、らっこの毛皮、らっこの毛皮がくるってさ。」
ほかのこどもたちもいっしょになってはやしたてました。
ジョバンニはもうなんともいえずさびしくなって、いきなり走りだしました。
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ジョバンニの言葉が喉まで上がってきてるその時に、言葉を投げつけられた瞬間の感覚。
そして更に投げつけられたからかいの言葉(ジョバンニの父はラッコの密漁で投獄されているという噂が広がっている)で、身体じゅうに起こる感覚。
これらが目に見えるように、読んでいる自分の心でいつか味わった感覚が呼び覚まされる。
同じような表現は何か所か出てくる。印象に残る表現である。

(2)空に(空間に)川が(水が)流れているという幻想性

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その天野の川の水を見きわめようとしましたが、はじめはどうしてもそれが、はっきりしませんでした。
けれどもだんだん気をつけて見ると、そのきれいな水は、ガラスよりも水素よりもすきとおって、光ったりしながら、ときどき眼の加減か、ちらちら紫色のこまかな波をたてたり、虹のようにぎらっと光ったりしながら、声もなくどんどん流れていき、野原にはあっちにもこっちにも、燐光の三角標が、美しくたっていたのです。
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銀河の水の幻想的な表現で印象的である。

銀河の中だけでなく、祭りの町の中にも水が流れている。
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空気は澄みきって、まるで水のように通りや店の中を流れましたし、街燈はみなまっ青なもみや楢の枝で包まれ、電気会社の前のプラタナスの木には沢山の豆電球がついて、ほんとうにそこらは人魚の都のように見えるのでした。
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柴山雅俊は、その著書「解離性障害」のなかで、
賢治の短歌 「この世界、 空気の代わりに水よみて、人もゆらゆら泡をはくべく」を引用して
「銀河鉄道の夜は夜空に川が流れるという点で賢治にとってきわめて幻想性の高い意識変容の世界を描いた童話である。」
「変容した意識を液体化した世界によって表現する手法は他の(賢治の)作品の中にも枚挙にいとまがない。

「精神医学が扱ってきた病的な(解離性障害などの)意識変容を超えて、人間のもつ創造性、宗教体験、自然との交感、夢、原始の心性など様々な幻想領域とつながっている。」

「賢治の作品には、体外離脱体験、疎隔・離人症状、幻視など多くの解離の症状を読み取ることができる。」
などと、精神医学からの視点で述べている。

夢と現実、生と死を行きかう「銀河鉄道の夜」は、美しい、幻想的、などの言葉だけでは表せない、人間の深い無意識に繋がり、呼びかけ、無意識を呼び起こすのもがあるのかもしれない。

(以上)

*解離性障害とは、自分が自分であるという感覚が失われている状態、まるでカプセルの中にいるような感覚で現実感がなかったり、ある時期の記憶が全く無かったり、いつの間にか自分の知らない場所にいるなどが日常的に起こり、生活面での様々な支障をきたしている状態をさす。
解離性同一性障害(多重人格)、離人性障害、解離性健忘、解離性トランス障害などがある。

 

book「脳から見える心–臨床心理に生かす脳科学」

「脳から見える心–臨床心理に生かす脳科学」岡野憲一郎 岩崎学術出版社2013

著者は、精神科医、精神分析家、国際医療福祉大教授、精神分析などの著書多数

近年の脳科学の進歩は著しいものの、解明されていることは極めて少ない。

「脳がこのような仕組みを持つことが、心のあり方にこのように影響を与えているかもしれない」
という姿勢で、本書では各章に「臨床心理士へのアドバイス」がはいっている。
この「アドバイス」が本書のエッセンスであると明言されている。

————本文から————-

あらゆる精神科的な疾患について、脳科学的な根拠を知ることは、それらが「本当の病気」であり、来談者たちはそれに苦しんでいる犠牲者であるという理解を促す。

「来談者の訴えに虚心坦懐に耳を貸しなさい」というよりは、「個々の病気を知りなさい」という教えの方がより現実的である。
虚心坦懐には限度があるが、病気を知ることで、それが「気のせい」ではないことがわかる。
それが来談者の苦しみを知ることでもある。

個々の病気を知るために、心理士は精神医学や脳の専門家になる必要はないが、「脳科学オタク」くらいにはなっておくことは必要だろう。

——————————–

心理療法家からすると、いささか抵抗を感じるところもあるかもしれないが、
脳科学的な視点も持つことで心理臨床の受け皿も大きくなるのではと感じる。

目次
(目次だけでは内容がわからないが、とりあえず)

1.ミラーニューロンから考える「共感とは何か?」

ミラーニューロン(脳の神経細胞ニューロン、他人の行動や心を鏡のように自分脳に映し出す)は、サルでも困っているサルに道具を受け渡しすることが確認されている。
私たちは、人の痛みを単に想像するだけではなく、直接的に、直に人の痛みを細胞レベルで認識している。
「他人の気持ちは、わかることの方が自然という発想で、治療者も自分のミラーニューロンを存分に生かして治療を行うべし」

2.オキシトシンが問いかける「愛とは何か?」

オキシトシン(出産や授乳の際に出るホルモン)が愛着、その時関わっている相手に対する愛情が湧く働きを持つといわれている。
自閉症、境界性パーソナリティ障害、PTSDにも関連するとの説もある。
心理士が対応するのは、他者と心を通わせて穏やかで長続きのする関係を持つことが苦手な人は少なくない。
脳科学を知って「その人自身の問題というよりは脳の異常や障害なのだ」という視点を持つことも心理士の職能の一つであるべき。

3.マインドタイム–意識と時間の不思議な関係

人がある行動を起こそうと決めた瞬間の約0.5秒前に、脳はすでにその行動に向けての活動を開始している。

4.サイコパスは「異常な脳」の持ち主なのか?

心理士は、サイコパス(精神病質、犯罪者性格、反社会性パーソナリティ障害)やその傾向を持った人の犠牲者の対応をすることが多い。サイコパスを社会の敵、犠牲者の敵として。
しかし、サイコパスも脳の障害の犠牲者ではないか(殺人者の半数以上に脳の形態異常がある)、精神障害者の犠牲者を一方で援助しながら、サイコパスを社会の敵と見なすのは矛盾していないだろうか。

5.ニューラルネットワークとしての脳
6.夢と脳科学
7.解離現象の不思議
8.脳の異常配線としてのイップス病
9.脳深部刺激への期待
10.右脳は無意識なのか?
11.愛着と脳科学
12.サヴァン症候群が示す脳の宇宙
13.小脳はどこに行った?
14.報酬系という宿命–何に向かい、何を回避するか
15.報酬系という宿命–快の錬金術
15.報酬系と日常生活–相手を不快にさせないのが流儀

 

book「慢性疼痛の治療—認知行動療法によるアプローチ」

「慢性疼痛の治療—認知行動療法によるアプローチ」  ジョン・オーティス 訳:伊豫雅臣他 星和書店 (2011年)

「患者さん向けワークブック」

腰痛などの慢性的な痛みに、うつ病などの治療で知られるようになった「認知行動療法」を適用する具体的方法のガイド。
「患者さん用ワークブック」と「治療者向けガイド」の2冊があります。
「治療者向けガイド」は治療を行う医師や心理士向けのものです。

「疼痛」とは、痛みを示す医学用語です。

<腰痛治療の常識の変化>

近年、腰痛治療の常識が変わりつつあります。
患者数2800万人の腰痛では、画像診断したケースの85%が原因不明といわれています。
たとえば椎間板ヘルニアがあっても痛みのないケース、逆になくても痛みのあるケースが多くあったりで、その関連性は
低いことがわかってきています。

85%の原因不明の多くが、心理的、社会的要因(生活や仕事上のストレスや環境)によると判断されています。
(当然、身体的損傷によるもの、他の病気によるものもあります。)

参考情報はこちらから

<本書について>

「認知行動療法」を基本としたセッション(面接)の内容と進め方が、具体的に示されています。
1回60分のセッションが週1回ペースで11回行われます。

最初に、現状とこれまでの経緯、今後について患者さんから話してもらいます。
導入面接票をもとにおよそ60分程度かけて行います。

以下の11回の各セッションでは、前回以降のフォロー、今回行う内容の確認して実施、最後に次回までのホームワーク(宿題)を決めます。

1.慢性疼痛についての教育
痛みによるこれまでに影響を整理し、治療の全体的な目標を決めます。

2.痛みの理論と腹式呼吸
痛みの理論の説明と、痛みを減少させるリラクセーション技法を学びます。今回は腹式呼吸。

3.漸進的筋弛緩法と視覚イメージ
リラクセーション技法の、身体の緊張をほぐす筋弛緩法と、心地よいイメージでリラックスする方法を学びます。

4.自動思考と疼痛
ここからが認知行動療法のメイン、自動思考を考えていきます。
どんな状況で、どんな自動的な考え、感情が起こるのか、その程度とパターンを考えていきます。

5.認知の再構成
前回の否定的な感情を生み出す思考を、より建設的な思考に変えていくことを学びます。

6.ストレスマネージメント
ストレスとはなにか、原因と過程、対処方法を学びます。

7.時間に基づいたペース配分
日常生活、仕事、前回まで学んできたことの実践にあたってにペース配分法を学びます。

8.楽しい活動の予定を立てる
楽しい活動を見つけ出し、日常に組み入れていきます。

9.怒りの管理
痛みに関連することの多い怒りの感情に気付き、反応を修正したり、自己主張的コミュニケーションを学びます。

10.睡眠健康法
睡眠の必要性と改善方法を学びます。

11.再発予防と再燃への備え
再発の合図(身体的、感情的)に気づき、それに対処、再発した時の対処について学びます。

これらを通じて、悪循環の止め、痛みをコントロールできる自分に近づけていく一助となるでしょう。

 

book「自分を好きになる本」 パット・パルマー (径書房)

「自分を好きになる本」

1991年初版以来のロングセラー

子供向けのやさしい言葉で絵本スタイル、大人も時々本棚から出して
静かな時間と空間を感じてみましょう。

第一章 自分を好きになろう
自分のいちばんいい友達になってあげよう。
いつでもどこでも、自分自身に「わたしはステキ!」っていってあげよう。

第二章 きもち
きもちは、とってもいい友だち
きもちは、心の中であなたにとっていちばん大切なことを教えてくれる。

第三章 きもちを話そう
相手のことを傷つけたり、怒らせたりせずに、思ったこと、
感じたことを話してみよう。

第四章 そのままでいいよ
そのままのあなたがいい。だれかのまねをすることなんてない。

第五章 からだのメッセージ
あなたのからだは、いつもあなたに話しかけてるんだよ。
からだのメッセージをちゃんと聞いていれば調子がいいか悪いか
よくわかるはず。

第六章 もっと自由に
「・・・でなくちゃいけない」なんてことはない。
あなたのやりたいことが大切。あなたのためにも、みんなのためにも。

パトパルマーの本は
「大人になる本」「夢をかなえる本」「怒ろう」「泣こう」「楽しもう」など

 

 

book「精神科医は腹の底で何を考えているか」  春日武彦  幻冬舎新書(2009)

「精神科医は腹の底で何を考えているか」

著者は精神科医。著書多数。
まえがきに「暴露本ではなく、精神医療のあり方やそもそも心を治すとはどうのようなことなのか、本音のところで精神科医はどのようなことを考えながら医療に従事しているのか、精神医療の多様性を切り口にして語ってみよう」とある。

立場は異なるが、心の問題ににかかわる者としてとても興味深く、カウンセリングをする上で考えさせられるところが多い。

目次には、
「何を基準に処方しているのか」
「名医の処方箋」「やぶ医者の処方箋」
「治療は医師と患者の共同作業」
「患者を破滅させる精神科医はいるのか」
「患者を支配しようとする精神科医」
「救急患者にどう対応するのか」
「世間知らずな精神科医」
「なにをもって治癒とするのか」
「幸福とはなにか」
等々
そして精神科医の100パターンが描き出されている。

今回は第1章「赤ひげ医師、熱血医師、愚かな医師」から

ここでは主に医師のさまざまな処方が出てくる。

—–以下、本文からの抜粋、編集—–

「訴える症状それぞれに別な薬を出して長大な処方箋を書く医師」
「ろくに診察もせず処方を出して患者を副作用で苦しめる医師」
不安、不眠、吐き気、食欲低下、めまい、イライラ、抑うつなどすべての症状
対応を出し、その上に副作用止めも出し、膨大な量の薬となる。

「名人芸的な処方をする医師」」
「思い込みは強いがそれが熱心さにつながる医師」
名人芸的な処方に精魂を傾ける。同じ錠剤でも朝昼晩で錠数をかえて
細かく支持する。しかし患者の方はいいかげんだったりする。

逆に「シンプルきわまりない処方」にこだわり続ける医師も。

「患者の薬の飲み方も把握せず処方し続ける医師」
朝起きれない患者が、朝の薬を飲まないか、朝昼をまとめて飲んでいるか
などをきちんと聞き出せるか、そのための信頼関係を築けるか。

「医師の発想と患者の発想とのギャップに気付きそれを埋められる医師」
ある薬剤は25mg錠と5mg錠がある。
25mgを投与していたが、改善してきたので15mgに減らす。
すると25mg1錠が、5mg3錠になり、患者は薬が増えたと誤解し
落胆する人がいたりする。こういった錯覚にも気配りできる医師の
方が、好結果をきたいできるのではないか。

いつも薬の見本を机の引出にいれておき、処方するときにそれを見せて
説明する医師もいる。

—————-

「処方」を「心理療法」「心理テスト」「カウンセリング手法」などと
置き換えてみるとどうなるだろう

 

 

book「うごいてやすむ—幸福になる気功」 天野泰司著 (春秋社)

「うごいてやすむ—幸福になる気功」

シンプルな気功を地道に伝えようと京都でNPO活動している著者。

本書は「動いたら休み、休んだらまた動く。動いてるときは楽しく動き、
また休むことをよく楽しむ」この当たり前のことが秘中の秘、という。

その中の「気を使ったら心を休める」から一つだけ紹介
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不安や心配というのは、頭が余分に働き過ぎているのです。
頭を休め、首の緊張を抜きます。
おすすめは大あくび。ぽかーんと、あごをゆるめ、口を大きく開きます。
そして目の温湿布や「てあて」。
さらに、ゆっくり丁寧に首まわしをして頭を休めてあげましょう。
アキレス腱を温めることも、とてもよいゆるめ方です。

そうして神経系統を整えることで、未来を見通す明るい空想が増え、
理性的で的確な判断ができるようになります。
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他にも「内臓をつかったら内臓を休める」「目をつかったら目を休める」
などとてもシンプルでやさしい気持ちになれるものが紹介されています。

日頃のからだとこころのケアに役立ちそうです

book 魚もうつになる 「病の起源」うつ病 

NHKスペシャル「病の起源」うつ病(10月20日放送)

なぜ、私たちはうつ病になるのでしょうか? 人類の進化がもたらした光と影

水槽の中で自由に泳ぎ回っていた魚に、ストレスを与え続けると水槽の底の方にかたまって動かかなくなってしまう。
天敵から身を守るために備わった脳の「扁桃体(へんとうたい)」が暴走し、うつ状態になることがわかってきたのです。
つまり
「扁桃体の暴走→ストレスホルモン連続分泌→脳神経細胞縮小、委縮→うつ状態、行動意欲低下」
という関係です。

その後誕生した哺乳類は、扁桃体を暴走させる新たな要因を生みだしていました。

群れを作り、外敵から身を守る社会性を発達させたことが、孤独には弱くなり、うつ病になりやすくなっていたのです。
群れで生活するチンパンジーは、孤独でうつ状態になります。

700万年前に人類が誕生。
脳が進化したことで高度な知性が生まれ、文明社会への道を切り開いてきました。
しかしこの繁栄は、皮肉にも人類がうつ病になる引き金を引いていました。

文明社会では社会が複雑化し、貧富の差が生じ人間関係が一変し、競争や妬み、孤独などのストレスが急激に増えます。
これが扁桃体を暴走させうつ状態になると共に、恐怖や失敗の記憶は海馬に蓄積されます。
そして他人の恐怖の言葉がこの記憶と結びつき、扁桃体が反応してしまいます。

アフリカのある部族(獲物を平等に分配する生活)のストレス調査(うつチェックのBDIと思われる)では、0に近い値(たしか2.2、正常範囲0-10、中程度20以上、重度40以上)です。

今後の有望なうつ治療としては、脳深部刺激手術と生活改善療法(TLC)があげられています。

生活改善療法は、孤独にならない社会的な結びつき、信頼関係をつくること、定期的な運動、太陽の光を浴びしっかり眠ることなどで、委縮した脳新家細胞を再生しストレスモルモンを減らしていくというもの。

当たり前の「人間本来の暮らし」を取り戻すことの大切さを再認識させられます。

(NHKスペシャルHPから一部引用しています)

book「何のために働くのか」自分を創る生き方  寺島実郎  文春文庫

「何のために働くのか」自分を創る生き方

 

世界の政治経済の分析、教育の第一線で活躍してきた著者が、これから社会で働く若者に送るメッセージ。

学生の就職活動が「自分探し」と「エントリーシートシンドローム」になっており、しかも大企業志向が根強いと指摘する。
そもそも大卒55万人に対し、大企業の新卒採用は11万人しか過ぎない。
大企業にエントリーシートを送ることが就職活動だと勘違いしている学生もいるようだ。
「傾向と対策」に従って、何百通ものエントリーシートを書き送る「エントリーシートシンドロームになっている。

こんな学生へ「働くことの意味をしっかり考えることが重要」と警鐘を鳴らす。

◆「自分探し」をしても「自分」は見つからない
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「どう働くか」は「どう生きるか」に直結している。
就職や転職が「自分が生きる意味」について思いをはせる絶好の機会になるのは、そのためだ。

ただし、「生きる意味」について考えるといっても「自分探し」とはまったく違う。
その点は誤解しないでほしい。

「自分はこれをするために生まれてきたんだ」と思えるもの、大仰に言えば「天命」や「天職」のようなものは、外を探し回って見つけるものではない。
これだけははっきりいっておきたい。

やりたい仕事が見つからず、焦りを感じている人もいるだろう。
採用してくれた会社にとりあえず入ったものの「ここには自分を活かせる仕事はない」と落胆している人もいるだろう。
だが「いつか青い鳥が見つかるはずだ」戯言を言いながらフラフラとさまよっても求めるものは得られない。

目の前にある仕事、取り組むことを余儀なくされたテーマに挑戦し、激しく格闘しているうちに「自分というもの」がわかってくる。
自分らしい仕事をさがすのではない。
仕事を通じて自分の可能性を懸命に探求していけば、おのずと「これをやるために生まれてきたんだ」と思える仕事に出会えるだろう。

・・・私自身の経験も実にそうであった。
約束されたシナリオなどなく、青い鳥もどこにもいないのだ。
何かを成し遂げた多くの先達たちも同様である。
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◆時代を切り拓いた先人の例を引きながら大切なのは、
「人間力と素心(そしん)、つまり一緒に仕事をしたいと思わせる力」と「自分の頭で考えること」という。

自由に自分で考えられる時代にもかかわらず、ネット情報に判断をお任せし、そのランキングやガイドラインに従ってすべてを決めている。
その思考停止ぶりが加速している。自分の頭で考えることを放棄している。

著者の世界認識の基本構図(「全員参加型秩序」「食と農業」「エネルギー」など)を語り考えるヒントを提示している。(内容は省略)

さらに、何をしたいのかを突き詰めて考えるときに、従来の産業別の分類からではなく、理念やビジネスモデルから考える六つのジャンル「環境・エネルギー」「医療・健康」「次世代ICT」「食と農業」「文化交流、グローバルサービス」「NPO・NGO」をあげている。この先に様々な企業や職種の選択肢がある。

◆「働くことの本質を掘り下げていくと、自分は何のために生きているのかという問いにぶつかる。」

「与えられた持ち場で、目の前の仕事に挑みながらカセギとツトメの両立を実現する。さらにその延長線上で、世の中をよりよい方向に変えるために力を尽くす。それが働くということではないか」

最後に、内村鑑三の言葉「われわれに後世に遺すものは何もなくとも、われわれに後世の人にこれぞというて覚えられるべきものは何もなくても、あの人はこの世の中に活きている間は真面目なる生涯を送った人であるといわれるだけのことを、後世の人に遺したいと思います」、
そして哲学者、市井三郎の言葉「歴史の進歩とは、自らの責任を問われる必要のないことで負わされる”不条理な苦痛”(生まれながらの貧困や立場、状況での差別など)を減らすことだ」も紹介しながら
「この仕事を通じて自分は世の中にどう関わっているのか、絶えずそう問いかけることを怠らない社会人になってほしい」と語りかける。

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若者へのメッセージとして書かれているが、最後の「働くことの本質」は、今日々懸命に働いている人、懸命に働いてきた人へのメッセージでもある。

book「わかりあえないことから」<コミュニケーション能力とは何か>   平田オリザ 講談社現代新書

「わかりあえないことから」<コミュニケーション能力とは何か>

 

劇作家平田オリザが、演劇とのかかわりの世界から語る一味違うコミュニケーション論。
いわゆるコミュニケーションスキルがつく、というハウツー本ではない。
著者は、大阪大学のコミュニケーションデザインセンター教授でもある。

以下本書から引用(一部要約)

ダブルバインドの「コミュニケーション能力」を求められている
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企業の採用時に最も重視される能力として「コミュニケーション能力」が9年連続のトップ。

ここでの「コミュニケーション」能力とは、「きちんと意見が言えること」「人の話が聞けること」「空気を読むこと」などであるが、
これは完全にダブルバインド(二重拘束)の状態にある。

ダブルバインドとは、たとえば
「わが社は社員の自習性を重んじる」と常日頃言われ、
相談に行くと「そんなこと自分で判断できんのか、いちいち相談にくるな」と言われながら
何かが起こると「重要な案件はなんでもきちんと上司に報告しろ、なんで相談しなかったんだ」と怒られる、
という状態。

企業が要求する「異文化理解能力」とは、異なる文化、異なる価値観を持った人に対しても、きちんと自分の主張を伝えることができる。文化的な背景の違う人の意見も、その背景を理解し、時間をかけて説得、納得し、妥協点を見出すことができる、という能力。
求められるもう一つの能力は、「上司の意図を察して機敏に行動する」「会議の空気を読んで反対意見は言わない」「輪を乱さない」といった日本社会における従来型のコミュニケーション能力。

このダブルバインド、矛盾した状態は、一つの家庭の中でも、社会全体でも繰り返されている。
これがニートや引きこもりの一つの原因にもなっている。
社会全体の内向きにも繋がってしまっている。
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表現教育の問題点
単語でしゃべる子供たち
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いまの子供たちがコミュニケーション能力が低下しているとは考えない。コミュニケーション(しゃべること)への意欲の低下が問題だ。
兄弟が多ければ「ケーキ!」とだけ言ったところで無視されるのが関の山だろう。しかし、今は少子化で、優しいお母さんなら、子供が「ケーキ!」と言えばすぐにケーキを出してしまう。あるいはもっと優しいお母さんなら「ケーキ!」という前にケーキをだしてしまうかもしれない。
子どもに限らず、言語は「言わなくて済むことは、言わないように変化する」という法則を持っている。
「ケーキ」をどうしたいのかを聞かずにケーキを出してしまっては、子どもが単語でしかしゃべらくなってもしかたない。単語でしかしゃべれないのではなく、必要がないからしゃべらないのだ。
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伝えたい気持ち
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「伝える技術」をどれだけ教え込もうとしたところで、「伝えたい」という気持ちが子どもの側にないのなら、その技術は定着していかない。ではその「伝えたい」という気持ちはどこから来るのだろう。それは、「伝わらない」という経験からしか来ないのではないかと思う。

いまの子供たちには、この「伝わらない」という経験が決定的に不足しているのだ。

障害者施設や高齢者施設を訪問したり、ボランティアやインターンシップ制度を充実させる。あるいは外国人とコミュニケーションをとる機会を格段にふやしていく。とにかく、自分と価値観の違う「他者」と接触する機会を、シャワーを浴びるように増やしていかなければならない。
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口べたは人格の問題ではない
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日本では、コミュニケーション能力を先天的で決定的な個人の資質、あるいは本人の努力など人格に関わる深刻なものと捉える傾向があり、それが問題を無用に複雑にしている。

「コミュニケーション能力」と呼ばれるものの大半は、スキルやマナーの問題と捉えて解決できる。
「理科の苦手な子」「音楽の苦手な子」と同じレベルで「コミュニケーションの苦手な子」と捉え方もできる。
「苦手科目の克服」ということで取り組んでいける。
理科が苦手でも、その子の人格に問題があるとはだれも思わない。口下手な子どもが人格に問題があるわけではない。

コミュニケーション教育は、ペラペラと口のうまい子どもを作る教育ではない。口下手な子はあと少しだけ、はっきりとものが言えるようにしてあげればいい。その程度のものだ、その程度のものであることが重要だ。

就活で言われるコミュニケーション能力も、人格の問題ではない。
今求められているのは、対等な人間関係の中で、いかに合意を形成していくかという能力。
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book堀田力の「おごるな上司!」 (講談社文庫)

堀田力の「おごるな上司!」

15年前の出版(単行本は1994年)ですが、
今もよくいるタイプの上司とその対処法が、リアルに鋭く描かれています。

現在のパワハラ概念に通じるものも多く、誰でも「ある、ある!」と思い当たるのでは。

目次から、少し紹介。

「無能な上司」
あなたが指導を受ける気でいるときに、あなたを怒ったり
いじめたりする上司は、あなたより無能だ。

「部下の責任感」
部下に責任感がないと嘆く人がいるが、
部下の責任感を育てないのは、その人の責任である。

「やめる」
やめることは簡単である。
ただし、間違っていることをあめるには、ちょっと勇気がいる。

book 「続 悩む力」姜尚中

姜尚中「続 悩む力」

私のどこかにあった違和感の一部に光をあてられたように感じた本です。
それは、大きな不安や葛藤に覆われたり、うつやパニックなどの症状で、動きたくても動けない、動く気力さえもてない、仕事はもちろん日常生活もままならない方々と接している中で、感じた違和感であるかもしれません。

長くなりますが、本書の「あとがき」から
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楽観論は力に通じ、悲観論は虚弱に通じる。
この格言のような言葉が意味しているのは、
幸せな人生を送りたければ、明るく、健康で、楽しく、積極的で、みんなと仲良くして、
何事にもくよくよせず、いつも前向きでなければならないということである。

心身ともに精力的で、活動的で、晴れやかな毎日。
まるでどこかの強壮剤のCMと見まがうような言葉こそ、この数十年に及ぶ私たちの社会のモットーだった。
・・・(略)・・

そんな楽観論や幸福論の底の浅さが明らかになりつつあったとき、あの「3.11」の事態が起きたのである。
・・・「安全神話」にどっぷり浸かっていた精神構造と「楽観論は力に通じる」というモットーとは明らかに通底しあっている。そこには、悲観論が入り込む余地はどこにもなかったのである。
それは科学、技術だけの問題ではなく、大きく言えば、この社会に生きる私たちの人生の価値や意味を縛っていたものであるのだ。

・・・・・私が本書で言いたかったこと・・・悲観論を受け入れ、死や不幸、悲しみや苦痛、悲惨な出来事から目をそらさず、しかしだからこそ、人生を存分に生きる道筋を示すことだった。

それは「人間がはかなく死ぬ運命にあるということを念頭において、あくまでも謙虚に人間的なるものを肯定する」(イーグルトン・宗教とはなにか)ということにほかならない。

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book「夜と霧」ヴィクトール・E・フランクル    

NHK「100分で名著」

ご存知、世界の超ロングセラー。

ナチス強制収容所に収容された精神科医フランクルが、過酷な体験と、極限状況で 人間は何に絶望し、何に希望を見出すのかをつづったもの。

「どんな時も、人生には意味がある」
この強いメッセージが世界中の人に感動と勇気を与え続けている。

「人間は人生から問いかけられている」

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人は辛い出来事、状況のなかで「生きる意味はあるのか」と人生の意味を問う、人生に何かを求める。

しかしフランクルは、なすべきことは、
「人生に問う」のではなく、「人生から問われていること」
に全力で答えていくことだと言う。

「あなたの内側に何かを探し求めないでください」
人生に求める限り、探し続けていく限り、絶えざる欲求不満の状態に追い込まれていく。

そうではなく、人間は「人生から問われている者」である、というのがフランクルの視点。

「この人生から、あなたは何をすることを 求められているのでしょうか」

「この人生で、あなたに与えられている意味、使命(ミッション)は何でしょうか」

「あなたのことを必要としている誰か、あなたのことを必要としている何かが、この世界にあるはず」

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